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ROAS・ROI

ROASの目安はどれくらい?「業界平均」より先に、自社の損益分岐点を計算する

「うちのROAS、300%なんですけど、これって良いんでしょうか」——広告の報告の場で、この質問に自信を持って答えられますか。「ROAS 目安」で検索すると業界平均の一覧表が出てきますが、それと見比べても、良いのか悪いのか、いまひとつ確信が持てない。その感覚は正しいです。他社の平均は、自社の判断基準になりません。

そこでこの記事では、まず「業界平均のROASで判断してはいけない理由」を整理し、そのうえで自社のROASの目安を粗利率から計算する3ステップを、早見表つきで解説します。読み終わる頃には、自社の損益分岐ROASと目標ROASを、根拠つきで言えるようになっているはずです。

広告の数字を報告・判断する立場のマーケティング担当者・経営者に向けて、実際にMMM(マーケティングミックスモデリング)分析を提供している立場から書きます。

【結論】ROASの目安は業界平均からは出ない。自社の粗利率から計算する

ROASの目安として意味を持つのは、業界平均ではなく、自社の損益分岐ROAS——「100%÷粗利率」で計算できる、広告費を粗利で回収できる最低ラインです。たとえば粗利率40%の事業なら、損益分岐ROASは250%。これを下回る広告は、売上を作りながら利益を減らしています(数値は説明用の架空の例です)。

目安が欲しいときにやるべきことは、他社の数字を探すことではなく、自社の粗利率を確かめること。それだけで、判断の基準は5分で手に入ります。まず、なぜ業界平均が使えないのかから説明します。

なぜ「業界平均のROAS」で判断してはいけないのか

理由は4つあります。出所をたどれない数字が多いこと、計測条件の違いが混ざっていること、利益率が違えば同じROASの意味が正反対になること、そして「広告がなくても売れる分」の含まれ方が会社ごとに違うことです。

そもそも「業界平均」の出所をたどれないことが多い

検索で出てくる業界平均ROASの一覧表は、出所をたどると海外の広告ツールベンダーの調査の引用や、さらにその孫引きであることが少なくありません。対象になった広告主の規模・国・媒体・集計年次が自社と合っているのか、そもそも確認のしようがない数字を、判断基準に置くべきではありません。この記事に業界平均の一覧表を載せていないのは、確かめられる出所を持つ業界平均の統計を提示できないなら、載せないほうが誠実だと考えているからです。

平均には計測条件の違いが混ざっている

ROASの分子になるコンバージョンの数え方は、会社ごと・媒体ごとに違います。クリック経由だけを数える会社もあれば、広告表示後の購入まで含める会社もあり、計測期間の設定もバラバラです。計測条件の違うROASを平均した数字は、どの会社の実態とも一致しません。同じ配信結果でも、計測設定を変えるだけでROASは大きく動きます——その数字の平均に、自社を合わせる意味はありません。

利益率が違えば「良いROAS」は正反対になる

仮に業界平均が400%だとします(架空の例です)。粗利率60%の会社にとって、400%は損益分岐(167%)の2倍以上で余裕のある水準です。ところが粗利率20%の会社にとって、損益分岐は500%——同じ400%が、前者には合格で、後者には赤字です。同じ業界でも、商品構成・価格帯・原価構造で粗利率は大きく違います。利益率を無視したROASの比較は、身長の違う人がズボンの丈を貸し借りするようなものです。

「広告がなくても売れる分」の含まれ方が違う

計測されたコンバージョンには、指名検索で戻ってきたリピーターのような「広告がなくても買っていた人」が含まれます。ブランドが強い会社ほどこの割合が大きく、ROASは高く出ます。つまりROASの高低には、広告の腕前だけでなく、ブランドの貯金がどれだけ混ざっているかが反映されています。創業10年のブランドと立ち上げ1年目の平均を取って、どちらの参考になるでしょうか。

自社のROASの目安を計算する3ステップ

自社の目安は、粗利率さえ分かれば3ステップで計算できます。①損益分岐ROAS(100%÷粗利率)を出す ②残したい利益を上乗せして目標ROASにする ③リピート・継続分をどこまで含めるかを決める、の順です。以下の数値はすべて説明用の架空の例です。

STEP1:損益分岐ROASを出す(100% ÷ 粗利率)

広告費をちょうど粗利で回収できるROASが損益分岐点です。計算は1回の割り算だけです。

損益分岐ROAS = 100% ÷ 粗利率

式の意味はこうです。売上のうち粗利率のぶんだけが手元に残るので、「売上 × 粗利率 = 広告費」になった瞬間が、広告費をちょうど回収できたところ。この式を変形すると「売上 ÷ 広告費(=ROAS)= 1 ÷ 粗利率」になります。たとえば粗利率40%なら、広告費100万円を回収するには粗利で100万円=売上250万円が必要で、ROASにすると250%——それが損益分岐です(数値は説明用の架空の例です)。

粗利率損益分岐ROAS
10%1,000%
20%500%
30%334%
40%250%
50%200%
60%167%

この表が示すとおり、「ROAS300%」は粗利率50%の事業なら黒字、粗利率20%の事業なら赤字です。業界平均の一覧表より先に、この1行の計算をしてください。

STEP2:残したい利益を上乗せして目標ROASにする

損益分岐はあくまで「トントンのライン」です。広告費以外の販売コストや、残したい利益を織り込んで、目標ROASに引き上げます。考え方はこうです。

目標ROAS = 100% ÷(粗利率 − 残したい利益率など)

たとえば粗利率40%の事業で、売上の10%を利益として残したいなら、100% ÷(0.4 − 0.1)=334%が目標ROASになります。損益分岐の250%と目標の334%の間が、「赤字ではないが目標未達」のゾーンです。合否の1本線ではなく、損益分岐と目標の2本線で見ると、判断の解像度が上がります。

なお、「残したい利益」の中身には、広告費以外にかかる販売コストも含めて考えてください。配送費・決済手数料・広告経由の注文に固有の対応コストなど、売上に比例して発生する費用は粗利率側で差し引くか、上乗せ分に含めるか、どちらかに寄せて一度だけ数えるのがポイントです。両方で数えると目標が過剰に厳しくなり、どちらでも数えないと「目標達成なのに儲からない」状態になります。

STEP3:リピート・継続分をどこまで含めるかを決める

初回購入の粗利だけで計算すると、リピートの多い事業では目標が厳しくなりすぎます。逆に、将来の継続分をいくらでも見込めば、どんなROASでも正当化できてしまいます。実務の落としどころは、「何ヶ月分(何回分)の継続を見込むか」を先に固定して、その前提を目標ROASとセットで明記することです。「LTV込みで見れば大丈夫」という説明が揉めるのは、たいてい前提の月数が言語化されていないからです。

目標ROASの運用での使い方と注意点

目標が決まったら、使い方に3つの注意点があります。キャンペーンの役割ごとに目標を分ける、粗利率が変わったら目標も更新する、そしてROASを上げること自体を目的にしない、です。

キャンペーンの役割ごとに目標を分ける

指名検索(ブランド名での検索)に出す広告は、もともと買う気の人が多く通過するためROASが高く出ます。新規獲得のキャンペーンと同じ目標を敷くと、新規側が常に「成績不良」に見えて、実際には未来の指名検索を作っている投資を削ることになりがちです。全社一律の目標ROASではなく、役割(新規獲得・指名・リターゲティング)ごとに目標を分けてください。

粗利率が変わったら目標も更新する

損益分岐ROASは粗利率の関数なので、値上げ・原価高騰・商品構成の変化で粗利率が動けば、目標もずれます。一度決めた目標ROASを何年も使い回している場合、いまの粗利率で計算し直すと損益分岐を割っていたということが起こり得ます。目標の見直しは、粗利率を確認するタイミング(四半期や半期の締め)とセットにしておくと、更新が仕組みになります。

ROASを上げること自体を目的にしない

ROASは配信を絞るほど上げやすい指標です。確度の高い層だけに配信すれば数字は上がりますが、獲得件数は減り、事業は伸びません。目標ROASは「これを下回らない範囲で、できるだけ多く獲得する」ための下限であって、最大化するスコアではありません。ROAS・ROI・CPAの使い分けはROASとROIの違いの記事で整理しています。

それでも「広告全体の目安」が決めきれないとき|増分で考える

粗利率からの逆算が通用するのは、コンバージョンが計測できる広告までです。クリックの起きない施策を含む広告全体の配分や総額の判断には、広告による増分を測る物差し(MMM)を足します。

テレビCMや認知目的の動画広告にはROASの分子になる計測値がなく、一方で計測できている媒体のROASには「広告がなくても買っていた人」が混ざっています。つまり、媒体別ROASを丁寧に管理しても、「広告全体としていくらまで使う価値があるか」「どの媒体に配分すべきか」には、別の物差しが必要です。

その物差しが、売上を「広告がなくても立つ分+施策ごとの貢献分」に分解して増分を推定するMMM(マーケティングミックスモデリング)です。媒体ごとの貢献度・ROI・飽和度(あとどれだけ伸びしろがあるか)が同じ基準で出るため、ROASでは比べられなかった媒体まで含めて予算配分を検討できます。配分の考え方は広告予算の配分の記事で解説しています。

DOREGAは、このMMMを分析代行の形で提供しているサービスです。エンジンにGoogleのオープンソースMMMライブラリ「Meridian」を使い、前後のデータ整形・レポート作成を独自ツールで標準化することで、媒体別の貢献度分解から予算配分シミュレーションまでを初回分析15万円で提供しています。管理画面のROASと増分ベースの貢献度のずれが見えると、目標ROASの置き方そのものを見直す材料になります。

よくある質問(FAQ)

Q01ROASの目安はどのくらいですか?

業界共通の目安はなく、自社の粗利率から計算するのが正解です。損益分岐ROASは100%÷粗利率で、粗利率40%なら250%、20%なら500%です(説明用の例です)。これに残したい利益を上乗せしたものが目標ROASになります。業界平均は計測条件も利益率も違う会社の混合値なので、判断基準には使えません。

Q02ROAS 300%は良い数字ですか?

粗利率次第です。粗利率50%なら損益分岐200%を上回る黒字圏ですが、粗利率20%なら損益分岐500%を大きく下回る赤字です(説明用の例です)。ROASの評価は必ず自社の損益分岐点とセットで行ってください。

Q03業界平均のROASと比べる意味はまったくないのですか?

市場観の参考として眺める程度なら害はありません。ただし平均には計測条件・利益率・ブランド力の違いが混ざっているため、自社の広告の合否判定には使えません。合否は自社の損益分岐ROASと目標ROASで判定するのが、根拠を説明できる方法です。

Q04目標ROASはどう決めればいいですか?

①損益分岐ROAS(100%÷粗利率)を出す ②残したい利益や広告費以外の販売コストを織り込んで上乗せする ③リピートの継続分を何ヶ月分見込むかを固定して明記する、の3ステップです。さらに、新規獲得・指名・リターゲティングなどキャンペーンの役割ごとに目標を分けると、実態に合った運用になります。

Q05ROASが目標を下回った広告は止めるべきですか?

まず、その広告の役割を確認してください。新規獲得や認知寄りの広告は、指名検索やリピートという形で後から効く分がROASに映りません。計測されたROASだけで止めると、売上を支えていた投資を削ることがあります。役割の切り分けには、広告による増分を測る分析(MMMなど)の併用をおすすめします。

ROASの目安は、業界平均ではなく自社の粗利率から計算する|まとめ

「ROASの目安はどれくらいか」への答えは、業界平均の一覧表の中にはありません。損益分岐ROAS=100%÷粗利率。この1本の計算が、自社にとっての唯一の確かな基準線です。そこに残したい利益を上乗せして目標を作り、継続分の前提を固定し、キャンペーンの役割ごとに分けて運用する。そして、計測できない施策や広告全体の配分の判断が必要になったら、増分を測る物差しを足す。目安を外に探すのをやめて自社の数字で作る——それがこの記事で持ち帰ってほしい結論です。

この記事のポイント

  • ROASの目安は業界平均からは出ない。平均には計測条件・利益率・ブランド力の違いが混ざっていて、自社の合否判定に使えない。
  • 自社の基準線は損益分岐ROAS=100%÷粗利率。粗利率40%なら250%、20%なら500%(説明用の例)。
  • 目標ROASは損益分岐に残したい利益を上乗せして作り、リピートを見込む場合は継続分の前提(何ヶ月分か)を固定して明記する。
  • 目標はキャンペーンの役割ごとに分ける。指名と新規に同じ目標を敷くと、未来の売上を作る投資が成績不良に見える。
  • ROASで測れるのは計測できた直接効果まで。広告全体の配分や総額の判断には、増分を測る手法(MMM)を足す。