広告経由の売上を合計すると、実際の売上より多い——重複計上の仕組みと、聞かれたときの説明のしかた
媒体別の広告経由売上を表計算で合計したら、実際の売上を超えていた。あるいは上司や役員に「この表の合計、売上より大きくないか」と指摘された——この記事は、その場面のための記事です。
先に結論を言うと、経由売上の合計が実際の売上を超えるのは、故障でも設定ミスでも水増しでもなく、数え方の設計によるものです。各媒体の管理画面は、自媒体の広告接点が関わった成果を、それぞれの基準で数えています。
この記事では、合計が実際の売上を超える3つの仕組みと、社内で聞かれたときの説明の順番、そして判断の種類ごとにどの数字を使えばよいかを整理します。実際にMMM分析(媒体をまたいだ増分ベースの広告効果分析)を提供している立場から解説します。
【結論】管理画面の経由売上は「媒体別に数えた延べの成果」。合計しても実際の売上にはならない
各媒体の管理画面は、自媒体の広告接点が関わった成果を、媒体ごとの基準で1件ずつ数えます。1件の購入が複数の媒体の広告に接触していると、その1件は複数の管理画面にそれぞれ記録されます。したがって媒体別の広告経由売上を合計した数字は、実際の売上ではなく「接点ごとに数えた延べの成果」です。
この数え方は各媒体の水増しではありません。媒体は他媒体の接点を見る手段を持たないため、自媒体の接点が関わった成果を数えるしかない、という設計の帰結です。数字そのものは各媒体の基準では正しく、正しい数字どうしを足すと意味のない合計ができあがる——ここがこの問題の核心です。
合計が実際の売上を超える3つの仕組み
仕組みは3つです。①同じ1件の購入が媒体をまたいで重複して数えられる、②計測の期間・条件が媒体ごとに違う、③広告がなくても買っていた人の購入も広告経由に数えられる。順に見ます。
仕組み1:同じ1件の購入が、複数の媒体に記録される
SNSの動画広告を見た人が、後日、検索広告をクリックして購入したとします。それぞれの媒体の計測条件を満たしていれば、SNS媒体の管理画面に1件、検索媒体の管理画面にも1件、成果が記録されます。実際の購入は1件です。媒体どうしのあいだに重複を差し引く仕組みはないため、媒体の数だけ接触があれば、1件の購入は最大でその数だけ数えられます。
仕組み2:計測の期間と条件が、媒体ごとに違う
成果に数える範囲——クリックから何日以内の購入まで数えるか、表示だけで購入した場合を数えるか——は、媒体と設定によって異なります。Google広告の公式ヘルプも、コンバージョンの数え方が計測の設定に依存することを説明しています。つまり、同じ表に並んだ「経由売上」は、列ごとに定義の違う数字です。定義の違う数字を合計しても、合計に対応する実体がありません。
- Google 広告 ヘルプ「コンバージョン測定について」成果の数え方が計測方法と設定に依存することの公式解説
仕組み3:広告がなくても買っていた人の購入も、経由売上に入る
社名やサービス名で検索して広告をクリックした人の多くは、広告がなくても検索結果からたどり着いていました。この購入も広告経由に数えられます。この仕組みは合計を膨らませるだけでなく、もう1つ大事な帰結を持ちます——たとえ合計が実際の売上より小さく収まっていても、広告の実力が過大に見えている可能性は残る、ということです。「広告によって増えた売上」を分けて見る方法は、増分売上・増分ROASの記事で解説しています。
架空の例で照合してみる|差の300万円の正体
数字の関係を1つの例で見ます。数値は説明用の架空の例で、実案件の数字ではありません。
| 広告経由売上(各管理画面) | |
|---|---|
| 媒体A(検索広告) | 400万円 |
| 媒体B(SNS広告) | 350万円 |
| 媒体C(リターゲティング) | 150万円 |
| 合計 | 900万円 |
| その月の実際のオンライン売上 | 600万円 |
差の300万円は、どこかの媒体の「嘘」ではありません。複数の媒体に接触した購入が複数回数えられた分と、計測条件の違いの分が積み重なったものです。
そして、この表からもう1つ分かることがあります。300万円の重複が、どの媒体にどれだけ含まれているかは、この表からは分からないということです。媒体Aの400万円のうち何割が媒体Bとの重複か、管理画面の数字をいくら眺めても答えは出ません。媒体別の経由売上を並べた表が予算配分の根拠に使えないのは、このためです。この構造をどう扱うかは、媒体の自動最適化と第三者計測の比較記事でも整理しています。
会議で聞かれたときの、説明の順番
説明は3歩に分けるのが安全です。①各媒体の数字はそれぞれの基準では正しい、②ただし基準が媒体ごとに違うため合計はできない、③判断の種類ごとに使う数字を決めてある——の順で話すと、「では広告の数字は全部信用できないのか」という着地を避けられます。
1歩目:「間違った数字」ではないことを先に言う
最初に言うべきは、数字の擁護です。「各媒体は自分の接点が関わった成果を数えていて、その基準では正しい数字です」。ここを飛ばして重複の説明から入ると、聞き手には「計測がずさんだった」と伝わり、これまで管理画面の数字で報告してきた資料まで疑われます。
2歩目:合計できない理由を、1つの例で言う
仕組みの説明は1例で足ります。「SNSの広告を見て、後日検索広告をクリックして買った人は、両方の媒体に1件ずつ記録されます。購入は1件です」。期間や条件の話まで広げる必要はありません。聞き手が知りたいのは網羅的な仕組みではなく、合計が売上を超えても異常ではない理由です。
3歩目:「では何の数字で判断するか」を宣言する
説明の着地は、原因ではなく運用のルールです。「媒体別の数字は媒体内の改善に使い、媒体をまたぐ比較は1つの物差しで数え直した数字で見ます」と宣言できれば、この話題は終わります。宣言の中身は次の章のとおりです。
判断の種類ごとに、使う数字を分ける
使い分けは3層です。媒体の中の運用改善には管理画面の数字、媒体をまたぐ比較には1つの物差しで数え直した数字、広告費の総額やオフライン込みの配分には増分の推定——という分担にすると、それぞれの数字の弱点が判断に響きにくくなります。
| 判断の種類 | 使う数字 | 前提として知っておくこと |
|---|---|---|
| 媒体の中の改善(入札・クリエイティブ) | 各媒体の管理画面 | 媒体をまたいだ比較・合計には使わない |
| 媒体をまたぐ比較 | GA4など、1つの基準で数え直した数字 | 数え直しても、タグとCookieが届く範囲の外は見えない |
| 広告費の総額・オフライン込みの配分 | 増分の推定(実験・MMM) | 管理画面にはない数字なので、実験または推定で用意する |
2層目について1つ補足すると、GA4で数え直した数字は媒体の管理画面の数字と一致しません。この不一致も異常ではなく、割り当てのルールが違うためで、Google自身が両者の差異と扱い方を公式ヘルプで説明しています。1つの物差しに揃える価値は「絶対に正しい数字になる」ことではなく、「媒体間を同じ条件で比べられる」ことにあります。
- Google 広告 ヘルプ「[GA4 への移行] コンバージョンの差異を修正する」Google広告とGA4で成果の数字が一致しない理由と扱い方の公式解説
- アナリティクス ヘルプ「アトリビューションのスタートガイド」接点への貢献の割り当てルール(アトリビューション)の公式解説
3層目の増分——広告がなかった場合と比べていくら増えたか——の出し方は、増分売上・増分ROASの記事で4つの方法を解説しています。実験で確かめる方法はインクリメンタリティテストとMMMの使い分けの記事、統計的に推定する方法はMMMとは?の記事が入口です。アトリビューション計測とMMMの役割の違いはMMMとアトリビューションの違いの記事にまとめています。
DOREGAの場合|媒体別の貢献を、同じ物差しで数え直す
TAMKOのMMM分析サービス「DOREGA」は、この記事の3層目——媒体をまたいだ増分の推定——を分析代行の形で提供しています。売上・申込という1つの事業KPIを物差しに、各媒体の貢献を時系列データから統計的に推定するため、管理画面のように接点ごとに数えた重複は原理的に入りません。エンジンには増分効果を推定する設計のGoogle「Meridian」を使い、初回分析15万円で媒体別の貢献・ROI・飽和度と予算配分シミュレーションまでを出します。手元のデータで分析が成立するかどうかは、無料の事前診断で確認できます。
よくある質問(FAQ)
Q01合計が売上を超えるのは、タグの設定ミスではないですか?
設定ミスとは限りません。設定が正しくても、媒体をまたいだ重複で合計が実際の売上を超えることはありえます。
ただし計測期間や、表示だけの成果を数える設定は媒体ごとに確認する価値があります。条件を揃えると膨らみ方は小さくなりますが、媒体間の重複そのものは残ります。
Q02管理画面とGA4の数字はどちらが正しいのですか?
管理画面もGA4も、それぞれの基準では正しい数字です。
数える範囲と割り当てのルールが違うため一致しません。媒体の中の改善には管理画面、媒体をまたぐ比較にはGA4のように、判断の種類で使い分けます。
Q03重複がどれくらいあるか、調べられますか?
完全な突合は難しいものの、手がかりはあります。
注文IDや申込データを起点に広告接触をさかのぼる方法と、配信を一部止めて実際の売上の変化を見る実験です。管理画面の数字の中だけで重複率を出すことはできません。
Q04合計が実際の売上より小さければ、問題ないですか?
小さくても、過大評価は起きえます。
広告がなくても買っていた人の購入が経由売上に入る仕組みは、合計の大小と関係なく働くためです。金額の大きい判断には、増分の物差しを足すことをおすすめします。
合計してよいのは、1つの物差しで数えた数字だけ|まとめ
媒体別の広告経由売上は、媒体ごとの基準で数えた延べの成果なので、合計しても実際の売上にはなりません。合計が売上を超えるのは、媒体をまたぐ重複・計測条件の違い・広告がなくても買っていた人の混入という3つの仕組みによるもので、故障でも水増しでもありません。社内での説明は「数字は各基準で正しい→基準が違うので合計できない→判断ごとに使う数字を決めてある」の3歩。そして媒体の中は管理画面、媒体間は1つの物差し、総額と配分は増分——と数字の分担を決めれば、この表が原因で判断が揺れることはなくなります。
この記事のポイント
- 媒体別の広告経由売上の合計が実際の売上を超えるのは、故障でも水増しでもなく、各媒体が自媒体の接点の成果をそれぞれ数える設計の帰結。
- 仕組みは3つ——媒体をまたぐ重複・計測期間と条件の違い・広告がなくても買っていた人の混入。
- 重複がどの媒体にどれだけ含まれるかは管理画面からは分からないため、経由売上を並べた表は予算配分の根拠に使えない。
- 社内での説明は3歩——「各基準では正しい」→「基準が違うので合計できない」→「判断ごとに使う数字を決めてある」。
- 数字の分担は、媒体の中は管理画面・媒体間は1つの物差しで数え直した数字・総額と配分は増分の推定。