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効果測定

増分売上・増分ROAS(iROAS)とは?計算式と「広告がなかった場合の売上」の推定方法4つ

「このROAS、広告を止めたら売上はいくら下がるの?」——上司にそう聞かれて、答えに詰まったことはありませんか。管理画面のROASは500%。ただ、その「広告経由の売上」の中に広告がなくても買っていた人がどれだけいるのかは、管理画面のどこにも出てきません。

そこでこの記事では、「広告によって増えた売上」を表す増分売上と増分ROAS(iROAS)について、定義と計算式、通常のROASとの違い、そして計算に必要な「広告がなかった場合の売上」を手元のデータから用意する4つの方法を整理します。

統計の専門知識がなくても、経営会議に出す資料の数字に落とせるレベルまで噛み砕きますので、広告を運用するマーケターの方はもちろん、広告の効果を確認する立場のマーケティング責任者・経営層の方にも役立つはずです。実際にMMM分析(増分ベースの広告効果分析)を提供している立場から解説します。

【結論】増分売上は「広告によって増えた売上」、増分ROASは増分売上÷広告費

増分売上(インクリメンタル売上)とは、広告がなかった場合と比べて、広告によって上乗せされた売上のことです。増分ROAS(iROAS:incremental ROAS)は、増分売上を広告費で割った指標で、「広告費が売上を何倍に増やして返したか」を表します。

計算式は次の2行です。

増分売上 = 実際の売上 − 広告がなかった場合の推定売上
増分ROAS = 増分売上 ÷ 広告費

広告がなかった場合の推定売上:1,300万円増分売上:200万円広告によって上乗せされた分実際の売上:1,500万円広告がなくても立っていた売上(1,300万円)
実際の売上を「広告がなくても立っていた売上」と「増分売上」に分けた図。数値は説明用の架空の例で、実案件の推定値ではありません

通常のROASとの違いは、分子に置く売上です。

通常のROAS増分ROAS
計算式広告経由の売上 ÷ 広告費増分売上 ÷ 広告費
分子の売上媒体が自媒体の接点に割り当てた売上広告によって増えたと推定される売上
分子に混ざるもの広告がなくても買っていた人・媒体をまたぐ重複混ざらない(ただし推定に幅がある)
答えられる質問「広告経由でいくら売れたか」「広告で売上がいくら増えたか」
どこで見られるか広告の管理画面管理画面には出ない(実験または推定で出す)

「広告を止めたら売上はいくら下がるのか」「この広告費で売上はいくら増えたのか」という質問に対応しているのは、右の列です。以下、なぜ通常のROASでは答えられないのかから順に見ていきます。

なぜ通常のROASでは「広告によって増えた売上」が分からないのか

通常のROASの分子は「広告経由の売上」であって、「広告が増やした売上」ではないからです。両者のあいだには、3つのずれがあります。

広告がなくても買っていた人が、広告経由の売上に数えられる

広告をクリックして買った人の中には、広告がなくても検索や直接訪問で買っていた人が含まれます。分かりやすいのが社名・サービス名で検索する人に出る指名検索の広告で、クリックの多くはもともと買うつもりでたどり着いた人です。管理画面はこの人たちの売上も広告経由に数えるため、経由売上は実力より大きく出ます。ROAS・ROI・CPAという指標そのものの限界は、ROASとROIの違いの記事で整理しています。

媒体ごとに数えるため、経由売上の合計は実際の売上を超えうる

1人がMetaの広告を見て、後日Googleの検索広告をクリックして買うと、双方の計測条件を満たせばMetaとGoogleの管理画面に1件ずつ成果が記録されます。実際の購入は1件です。媒体の管理画面には媒体をまたいだ重複を差し引く仕組みがないため、媒体別のROASを合計しても「広告全体で増やした売上」にはなりません。この数え方の構造は、媒体の自動最適化と第三者計測の比較記事で詳しく解説しています。

クリックの起きない施策は、経由売上の表に出てこない

テレビCM・交通広告・店頭販促にはクリックがないため、経由売上という物差しでは0円に見えます。効果が小さいのではなく、最初から表に載りません。テレビCMの効果の測り方は、テレビCMの効果測定の記事で解説しています。

増分ROASの計算式と計算例

式は「実際の売上から、広告がなかった場合の推定売上を引き、広告費で割る」の1行です。難しいのは式ではなく、「広告がなかった場合の売上」という比較相手を用意することです(用意の仕方は次の章で扱います)。

先に、数字の関係を1つの例で通して見ます。数値は説明用の架空の例で、実案件の推定値ではありません。

  • 広告費:100万円
  • 管理画面の広告経由売上:500万円 → 通常のROASは500%
  • その月の実際の売上:1,500万円
  • 広告がなかった場合の推定売上:1,300万円

このとき、増分売上と増分ROASは次のようになります。

増分売上 = 1,500万円 − 1,300万円 = 200万円
増分ROAS = 200万円 ÷ 100万円 = 2.0倍

通常のROAS 500%と増分ROAS 2.0倍は、同じ月の同じ広告の数字です。「広告経由で500万円売れた」と「広告で売上が200万円増えた」は、どちらも嘘ではありません。ただし「広告を止めたらいくら下がるか」という質問に対応しているのは、200万円のほうです。

黒字かどうかの分岐は「100%÷粗利率」で判定する

増分ROASが出たら、広告費が利益として回収できているかを確認できます。条件は「増分売上×粗利率が広告費を上回ること」、式にすると増分ROASが100%÷粗利率を超えることです。粗利率40%なら分岐点は2.5倍。上の例の2.0倍はこれを下回るので、経由売上のROAS 500%では優秀に見えた広告が、粗利ベースでは広告費を回収できていない計算になります。損益分岐ROASの考え方はROASの目安の記事で解説しています。

「広告がなかった場合の売上」を推定する4つの方法

方法は4つあります。①前年・直前期間との比較、②地域で分ける広告あり/なしの比較、③配信を止める・見せないオン/オフ、④時系列データからの推定です。下に行くほど手間がかかり、確からしさも上がります。会議向けの概算なら①から、予算配分の根拠にするなら②〜④が候補です。

方法1:前年・直前期間と比較する

最も手軽な方法です。広告を強めた月の売上が1,200万円、例年の水準から見て1,000万円程度と見込めるなら、増分売上は200万円——という計算です(数値は説明用の架空の例です)。

弱点ははっきりしていて、季節性・値上げ・セール・店舗数の変化など、広告以外の要因がすべて「広告の効果」に混ざります。最初の目安には使えますが、この数字だけを増分と呼んで会議に出すのは危険です(つまずきの章で扱います)。

方法2:広告あり/なしを地域で分けて比較する

広告を出す地域と出さない地域を用意し、両方の売上の伸びを比べる方法です。たとえば広告あり地域の売上が300万円伸び、広告なし地域も市場要因で100万円伸びたなら、広告による増分は差し引き200万円と読みます(数値は説明用の架空の例です)。広告なし地域の伸びが「広告がなくても起きていた変化」を教えてくれるため、方法1の弱点だった市場要因を打ち消せます。

この設計を実験として厳密に行うのがインクリメンタリティテスト(ジオリフトテスト)で、増分の証明としては最も確かな方法です。実験の設計・費用・期間は、インクリメンタリティテストとMMMの使い分けの記事で解説しています。

方法3:配信のオン/オフ・媒体のリフト機能を使う

地域で分けられない場合も、期間の一部で配信を止める、配信対象の一部にあえて見せない、という形で「広告なし」を作れます。Google広告やMetaには、広告を見せるグループと見せないグループを分けて成果の差分を測るコンバージョンリフトなどのテスト機能があり、媒体の中の施策であれば実験の設計を媒体側が肩代わりしてくれます。

注意点は、配信を止めた影響がすぐには数字に出ないことです。広告の効果には残存(アドストック)があるため、短すぎるオフ期間は増分を小さく見積もらせます。止める前に影響の出方を見積もる考え方は、広告をやめたら売上はどうなるかの記事で解説しています。

参照

方法4:時系列データから統計的に推定する

全国一斉に配信していて、地域でも期間でも分けられない——という場合の現実解が、過去の時系列データからの推定です。過去1〜2年分の売上・広告費の推移に、季節性・セール・値上げなどの要因を織り込んで、「その月、広告費を増やさなかったら売上はいくらだったはずか」を統計モデルで推定します。

このとき売上は「広告がなくても立つ売上(ベースライン)+広告の貢献+季節などの要因」に分解されます。効果が翌週以降に残る性質(アドストック)や、投下量を増やすほど伸びが鈍る性質(飽和)も織り込みます(アドストック・飽和の記事で図解しています)。この分解を統計手法として体系化したものがMMM(マーケティングミックスモデリング)で、GoogleのMMMフレームワーク「Meridian」も、各施策の増分効果を推定する設計であることを公式ドキュメントに明記しています。仕組みの全体像はMMM(マーケティングミックスモデリング)とは?の記事で解説しています。時系列の要因分解を専用ツールなしで試す手順は、広告効果を自分で分析する方法の記事にまとめています。

参照
方法必要なもの確からしさ向く場面
①前年・直前期間との比較月別の売上実績低(市場要因が混ざる)最初の目安・会議向けの概算
②地域あり/なし比較地域別の売上と、地域で分けられる配信高(実験として最も確か)特定施策の増分の証明
③オン/オフ・リフト機能止める・見せない期間や対象高デジタル施策の増分の確認
④時系列からの推定過去1〜2年分の売上・広告費の時系列中〜高(データの質に依存)全国一斉の施策・止められない事情がある場合・配分全体の見直し

自分で計算するときにつまずく3つの点

つまずきは3つに集約されます。前後の差をそのまま増分と呼ばない、広告費とキャンペーンが同時に動いたデータでは切り分けをあきらめる、増分は幅のある推定として出す——この3つを守るだけで、自分で出した数字が会議で崩れる場面はかなり減ります。

前後の差を、そのまま増分と呼ばない

「8月の売上1,000万円が広告を強めた9月に1,300万円になったので、広告効果は300万円」という計算は、季節要因もセールも値上げも全部300万円の中に入れてしまいます(数値は説明用の架空の例です)。会議で最初に指摘されるのはここです。比べる相手——前年同月か、広告なし地域か、時系列からの推定ベースラインか——を先に決めてから、引き算をしてください。

広告費とキャンペーンがいつも同時に動くデータでは、切り分けられない

「キャンペーン開始と同時に広告費も倍にする」を毎回繰り返してきたデータでは、売上の伸びがキャンペーンのおかげか広告のおかげか、統計的にも切り分けられません。切り分けられないのは計算技術ではなくデータ設計の限界なので、無理に数字を出すより「このデータでは分けられない」と正直に言うほうが、資料の信頼は保てます。今後の切り分けのためには、広告費の増減とキャンペーンの時期を少しずらして変動を作っておくことが効きます。

増分は、幅のある推定として出す

どの方法で出しても、増分売上は測定値ではなく推定値です。「広告による上乗せは約200万円と推定」のように、概数と推定であることを添えて出してください。1つの数字で断定すると、前提を1つ突かれただけで資料全体が崩れます。幅を添えた推定は、断定より弱く見えて、会議では折れにくい数字です。

DOREGAの場合|売上を「ベースライン+施策ごとの増分」に分解する

TAMKOのMMM分析サービス「DOREGA」は、この記事の方法4——時系列データからの統計的な推定——を分析代行の形で提供しています。エンジンには、各施策の増分効果を推定する設計のGoogle「Meridian」を使い、前後のデータ整形・レポート作成を独自ツールで標準化することで、初回分析15万円で、媒体別の増分ベースの貢献・ROI・飽和度の分解から予算配分シミュレーションまでを出します。管理画面のROASと増分ベースの貢献を並べると、どの媒体の数字が過大・過小に出ていたかが具体的に分かります。手元のデータで分析が成立するかどうかは、無料の事前診断で確認できます。

よくある質問(FAQ)

Q01増分ROASはどのくらいあれば黒字ですか?

分岐点は業界平均ではなく、自社の粗利率から「100%÷粗利率」で計算します。

増分売上×粗利率が広告費を上回ることが黒字の条件なので、粗利率40%なら増分ROAS 2.5倍、30%なら約3.3倍が分岐点です。業界平均のROASと比べる必要はありません。

Q02増分売上は、広告の管理画面やGA4で確認できますか?

どちらの画面にも表示されません。

管理画面もGA4も「広告がなかった場合の売上」というデータを持っていないためです。媒体のリフトテスト機能で実験するか、この記事の4つの方法のように比較相手を自分で用意して推定する必要があります。

Q03通常のROASはもう見なくていいですか?

いいえ。役割が違うので併用します。

媒体の中の入札やクリエイティブの改善には通常のROASが今も有効です。媒体をまたぐ予算配分や広告費総額のような金額の大きい判断に、増分の物差しを足してください。

Q04指名検索の広告の売上は、増分に入りますか?

経由売上の大きさに比べて、増分は小さくなりやすい広告です。

社名やサービス名で検索する人の多くは、広告がなくても検索結果からたどり着くためです。実際にどこまで増分かは、配信を一部止めて比べる実験で確かめられます。

ROASは「広告経由の売上」、増分は「広告が増やした売上」。大きい判断は増分で|まとめ

管理画面のROASが答えているのは「広告経由でいくら売れたか」までで、「広告で売上がいくら増えたか」は増分売上・増分ROASという別の数字です。増分の計算式は1行——実際の売上から「広告がなかった場合の推定売上」を引いて広告費で割る——で、難所は比較相手の用意にあります。前年比較・地域あり/なし・オン/オフ・時系列推定の4つから用途に合う方法を選び、幅のある推定として出す。媒体の中の日々の運用は通常のROASのまま、媒体をまたぐ配分や総額のような金額の大きい判断から、増分の物差しに替えていくのが実務的な順番です。

この記事のポイント

  • 増分売上とは「実際の売上−広告がなかった場合の推定売上」。増分ROAS(iROAS)は増分売上を広告費で割った指標で、通常のROASとは分子の売上が違う。
  • 管理画面の広告経由売上には、広告がなくても買っていた人と媒体をまたぐ重複が含まれ、クリックの起きない施策は含まれない。
  • 「広告がなかった場合の売上」の作り方は4つ——前年比較・地域あり/なし比較・配信のオン/オフ・時系列データからの推定。下に行くほど手間と確からしさが上がる。
  • 前後の差をそのまま増分と呼ばない。比べる相手を先に決め、幅のある推定として出す。
  • 黒字の分岐点は増分ROAS=100%÷粗利率。業界平均ではなく自社の粗利率から計算する。