広告効果を自分で分析するには?Excelの回帰分析で売上を要因分解する手順と、会議に出す前の確認5点
「広告の効果を数字で説明して」と言われたものの、分析ツールの予算も、データサイエンティストもいない——そんな状況で手元にあるのは、ExcelとGoogleスプレッドシートだけ、という方は多いはずです。
結論から言うと、広告の売上効果の概算は、Excelでも出せます。そこでこの記事では、必要なデータの準備から、回帰分析で売上を「ベース+広告+季節・キャンペーン」に分ける手順、経営会議へのウォーターフォールでの見せ方、そして出てきた数字を会議に出す前に確かめる5点までを、順番に整理します。
統計の授業を思い出す必要はありません。Excelの操作と、数字の読み方・出し方の実務に絞って解説します。実際にMMM分析(同じ考え方の専用手法)を提供している立場から、自分でできる範囲と、専用の手法に切り替える目安も正直に書きます。
【結論】週次1〜2年分のデータがあれば、Excelの回帰分析で概算できる
広告の売上効果は、専用ツールがなくても、週次1〜2年分の「売上・広告費・広告以外の要因」を並べた表があれば、Excelの回帰分析で概算できます。回帰分析とは、売上を「ベースの売上+広告の分+季節の分+キャンペーンの分」に分けて、それぞれの影響の大きさを過去データから推定する統計手法です。出てくるのは「広告費1円あたり売上何円」という係数で、係数×広告費がその期間の広告の貢献額の推定になります。
ただし、出てきた数字は測定値ではなく推定値です。そのまま会議に出すと崩れる場面があるので、この記事の後半の「出す前の確認5点」とセットで使ってください。全体の流れは次の4つです。
- データを準備する(週次1〜2年分・売上と広告費と広告以外の要因)
- Excelで回帰分析を回して、売上を要因に分解する
- ウォーターフォール1枚に落として見せる
- 出す前に5点を確認する
準備するデータ|週次1〜2年分の「売上・広告費・広告以外の要因」
用意するのは、週を1行にした表が1枚だけです。列は「売上」「広告費」に加えて、売上を動かした広告以外の要因——キャンペーンの有無、値引き、祝日の数、月——を並べます。
粒度は月次より週次をすすめます。月次だと2年分でも24行しかなく、説明する要因の数に対してデータの点が足りません。週次なら2年分で約104行になり、推定が安定しやすくなります。GoogleのMMMフレームワーク「Meridian」の公式ドキュメントも、モデルづくりに必要なデータ量の目安を公開しており、考え方は同じです。データの期間・粒度の最低条件はMMMは中小企業でもできる?の記事で詳しく整理しています。
| 週 | 売上(万円) | 広告費(万円) | キャンペーン | 祝日数 |
|---|---|---|---|---|
| 2025-04-07 | 1,020 | 80 | 0 | 0 |
| 2025-04-14 | 1,180 | 120 | 1 | 0 |
| 2025-04-21 | 990 | 80 | 0 | 1 |
コツは、売上を動かした出来事を思い出せる限り列にすることです。「この週はテレビで紹介された」「値上げした」のような単発の出来事も、あり=1・なし=0の列(ダミー変数)にして足しておくと、あとで「説明できない週」を減らせます。
- Google Meridian 公式ドキュメント「必要なデータ量」MMMのモデルづくりに必要なデータ量の目安の公式解説
Excelでの要因分解の手順5ステップ
手順は5つです。統計の関数を1つも覚えなくても、Excelの分析ツール(アドイン)の画面操作で完結します。
ステップ1:表を1枚にまとめる
週を行、要因を列にした表を作ります。売上が目的変数(説明したい数字)、広告費とその他の列が説明変数(説明に使う数字)です。
ステップ2:広告以外の要因を数字にする
キャンペーンの有無のような「あり/なし」は、あり=1・なし=0の列にします。季節性は「4月」「12月」のような月の名前のままでは計算に使えないので、繁忙月=1の列を作るか、月ごとの0/1の列に分けます。
ステップ3:回帰分析を回す
Excelの「データ」タブ→「データ分析」→「回帰分析」で、目的変数に売上、説明変数に広告費とその他の列を指定します(「データ分析」が見当たらない場合は、分析ツールというアドインを有効にします)。関数で行いたい場合はLINEST関数でも同じ係数が得られます。
- Microsoft サポート「Excel で分析ツールを読み込む」回帰分析を含む分析ツール(アドイン)を有効化する手順の公式解説
- Microsoft サポート「LINEST 関数」回帰の係数を関数で求める場合の公式リファレンス
ステップ4:係数を読む
結果に出る「係数」が、各要因の効きの推定です。広告費の係数が1.8なら「広告費1万円あたり売上1.8万円」、キャンペーン列の係数が180なら「キャンペーンのある週は売上が平均180万円高い」と読みます(数値は説明用の架空の例です)。係数×その週の広告費が、その週の広告の貢献額の推定になります。
ステップ5:分解を確かめる
各週について「係数から計算した売上」と「実際の売上」の差を見ます。差が大きい週は、モデルに入れていない出来事——テレビ露出・在庫切れなど——があった週です。思い当たる出来事を列にして、もう一度回します。
なお、広告の効果には今週の広告が来週以降の売上にも残る性質(アドストック)があります。気になる場合は「今週の広告費+先週の広告費×0.5」のような列を作って試す方法があります。この持ち越しと、投下量を増やすほど効きが鈍る飽和の考え方は、アドストック・飽和の記事で図解しています。
会議への見せ方|ウォーターフォール1枚に落とす
分析の中身を会議で説明する必要はありません。伝わるのは、実際の売上から要因を1つずつ引いていくウォーターフォールの1枚です。
この形にすると、「売上は増えたが、その全部が広告のおかげではない。季節とキャンペーンを除いた広告などの上乗せは約150万円」という説明が1枚で済みます。ポイントは、残った150万円を「広告の効果」と断定せず、「広告などによる分(推定)」と幅を持たせて書くことです。この150万円が増分売上の概算にあたり、広告費で割れば増分ROASの概算になります。増分の指標としての読み方は増分売上・増分ROASの記事で、この1枚を含む報告資料全体の組み立ては広告の効果を上司に説明する方法の記事で解説しています。
その数字を会議に出す前の確認5点
確認するのは、当てはまり・係数の符号・同時に動く要因・期間の安定性・幅の5点です。どれも統計の試験ではなく、「会議で突かれる場所」を先に自分で突いておく作業です。
1. 当てはまり(決定係数R²)を見る——ただし高さを目的にしない
回帰の結果に出る決定係数(R²)は、売上の動きのうちモデルが説明できた割合です。極端に低ければ、大事な要因が列に入っていません。ただしR²が高いほど正しいわけではなく、列を足せば足すほどR²は機械的に上がります。R²を上げること自体を目的にすると、当てはまりだけ良くて中身の壊れたモデルになります。
2. 係数の符号と大きさが、常識に合うか
広告費の係数がマイナス——広告を増やすほど売上が減る——になっていたら、モデルの設計を疑ってください。多くの場合、広告費と一緒に動く別の要因が抜けています。大きさも見ます。係数から計算した広告の貢献が売上全体を超えるような結果は、そのまま使えません。
3. 広告費とキャンペーンが、いつも同時に動いていないか
「キャンペーン開始と同時に広告費も倍にする」を毎回繰り返してきたデータでは、売上の伸びがキャンペーンの分か広告の分か、回帰分析でも切り分けられません。係数は出ますが、信用できない係数です。この場合は無理に分けず、「広告+キャンペーンでいくら」とまとめて報告するほうが、資料の信頼は保てます。今後のために、広告費の増減とキャンペーンの時期を少しずらして変動を作っておくと、次回から切り分けられるようになります。
4. 期間を変えても、結果が大きく変わらないか
全期間で回した係数と、直近1年だけで回した係数を比べます。大きく違うなら、効き方が途中で変わったか、たまたまの相関を拾っています。安定しない係数を1つの数字で報告するのは危険です。
5. 幅をつけて出す
どれだけ確認しても、推定は推定です。「広告などによる上乗せは約150万円と推定」のように、概数であること・推定であることを添えて出してください。1つの数字で断定すると、前提を1つ突かれただけで資料全体が崩れます。幅を添えた推定は、断定より弱く見えて、会議では折れにくい数字です。
自作の限界|ここから先は専用の手法の領域
Excelの回帰分析で出せるのは「広告全体の貢献の概算」までです。次の4つが必要になったら、専用の手法(MMM:マーケティングミックスモデリング)に切り替える目安です。
- 媒体別に分けたい——GoogleとMetaとテレビCMの貢献を別々に出そうとすると、媒体同士の広告費も同時に動いているため、単純な回帰では係数が安定しません
- 持ち越しと飽和をきちんと扱いたい——アドストックの長さや飽和の形は媒体ごとに違い、手作業の列づくりでは追い切れません
- 「配分を変えたらどうなるか」を試算したい——回帰の係数は過去の投下量の範囲での平均的な効き方です。予算を大きく動かした場合の試算には、飽和を前提にしたシミュレーションが要ります
- 社外の目で検証された数字にしたい——自分で作った数字を自分で説明する構図では、「その推定は誰が確認したのか」と聞かれたときに答えが手元にありません
MMMはこの4つを扱うために発展してきた手法です。仕組みはMMM(マーケティングミックスモデリング)とは?の記事で解説しています。
DOREGAの場合|同じ考え方を、検証つきの分析として出す
TAMKOのMMM分析サービス「DOREGA」は、この記事の要因分解と同じ考え方を、専用の統計モデル(GoogleのMMMフレームワーク「Meridian」)で行う分析代行サービスです。前後のデータ整形・レポート作成を独自ツールで標準化することで、初回分析15万円で、媒体別の貢献・ROI・飽和度の分解から予算配分シミュレーションまでを出します。広告・SNS運用の経験を持つ分析者がモデルの妥当性を確認するため、自作の概算を社外の検証を経た数字に置き換える使い方ができます。手元のデータで分析が成立するかどうかは、無料の事前診断で確認できます。
よくある質問(FAQ)
Q01Excelの回帰分析とMMMは、何が違うのですか?
骨格は同じで、MMMは広告向けの性質を組み込んだ発展形です。
売上を要因に分解する考え方は共通ですが、MMMはアドストック(持ち越し)と飽和を関数として組み込み、媒体別の分解と予算配分シミュレーションまでを扱います。Excelの回帰分析は、その入口として十分に実用的です。
Q02データが月次しかありません。それでも分析できますか?
点の数が足りず、参考値にとどまることが多いです。
月次2年分は24行しかなく、説明変数を3〜4本入れると推定が不安定になります。売上と広告費を日次・週次で集計し直せないかを先に確認してください。
Q03決定係数(R²)はどのくらいあればいいですか?
一律の合格ラインはありません。
事業やデータの粒度によって変わるためです。実務ではR²の高さより、係数の符号が常識に合うか・期間を変えても安定するか・説明できない週に理由があるかの確認のほうが効きます。
Q04出てきた広告の係数は、そのまま来期の予算計画に使えますか?
そのまま使うことはおすすめしません。
係数は過去の投下量の範囲での平均的な効き方で、予算を大きく増やすと飽和で効きが変わります。配分を変えた場合の試算には、飽和を前提にしたシミュレーションを含む手法(MMM)が向いています。
広告効果の分析は、Excelで始めて、確認5点で守る|まとめ
広告の売上効果は、週次1〜2年分の表とExcelの回帰分析で概算できます。手順は、表を1枚に・要因を数字に・回帰を回す・係数を読む・分解を確かめるの5ステップ。会議には統計の画面ではなくウォーターフォール1枚で見せ、出す前に当てはまり・係数の符号・同時に動く要因・期間の安定性・幅の5点を確かめる。そして媒体別の分解・飽和・シミュレーション・社外の検証が必要になったところが、専用の手法に切り替える目安です。
この記事のポイント
- 週次1〜2年分の「売上・広告費・広告以外の要因」の表があれば、Excelの回帰分析で広告の売上効果を概算できる。
- 手順は5ステップ——表を1枚に・要因を数字に・回帰を回す・係数を読む・分解を確かめる。
- 会議への見せ方は「実売上−ベース−季節−キャンペーン=広告など」のウォーターフォール1枚。残りを広告の効果と断定しない。
- 出す前の確認5点は、当てはまり・係数の符号・同時に動く要因・期間の安定性・幅をつけて出すこと。
- 媒体別の分解・飽和・配分シミュレーション・社外の検証が必要になったら、専用手法(MMM)に切り替える目安。