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成熟期・予算見直し

プロダクトライフサイクル成熟期の広告予算はどう決める?「削る」前に知っておきたい判断基準

「もう十分に知られている商品なのに、広告費だけ毎年ほぼ同じ。これは削れないのか」——成熟期に入った商品を担当していると、予算の時期にこうした声が届きます。

教科書どおりに考えれば、答えは「削減」です。プロダクトライフサイクルの理論では、成熟期の広告は新規獲得から維持へ役割を変え、費用は効率化していくものと整理されています。ただ、この整理には続きがあります。長く出し続けてきた広告費の中には、いまの売上を静かに支えている費用が混ざっていることがあり、それを見分けないまま一律に削ると、維持されていた売上ごと失いかねません。

そこでこの記事では、プロダクトライフサイクルの成熟期・衰退期における広告予算の考え方を、理論の整理から「削れる費用と削れない費用をデータで見分ける方法」まで通して解説します。

想定しているのは、成熟期に入った商品・ブランドの広告予算について、削るか続けるかの判断を求められている方です。実際にMMM(マーケティングミックスモデリング)分析を提供している立場から書きます。

【結論】成熟期の広告費は「一律削減」ではなく「仕分け」が正解

成熟期の広告費は、一律に削減する前に「仕分け」をするのが正解です。長く続けてきた広告費には「新規獲得のための費用」と「いまの売上を維持している費用」が混在しており、後者を削るとベースの売上ごと沈むからです。

やっかいなのは、この2つが広告管理画面の数字では見分けられないことです。維持の効果はクリックやコンバージョンとして表れないため、ROASやCPAで並べ替えても「削っていい広告」は分かりません。しかも、維持している費用を削ったときの影響はすぐには出ず、数ヶ月遅れて表れます。削った直後は費用だけが先に減るので、数字はむしろ良く見えます。

ここから先は、この結論を順番に確かめていきます。前半でプロダクトライフサイクルの理論と成熟期の広告の役割を整理し、後半で削れる費用と削れない費用をデータで見分ける方法を解説します。理論はすでに分かっているという方は、見分ける方法の章から読んでも通じるように書いています。

プロダクトライフサイクルとは|4つの段階と成熟期の位置づけ

プロダクトライフサイクルとは、製品や市場の売上が「導入期→成長期→成熟期→衰退期」の4段階をたどり、S字型のカーブを描くという考え方です。段階ごとに競争環境と戦略の課題が変わり、広告に求められる役割も変わっていきます。

導入期・成長期・成熟期・衰退期の特徴

4つの段階は、売上の動きと競争環境で特徴づけられます。広告の観点で大事なのは、段階が進むにつれて広告の仕事が変わっていくことです。

段階売上の動き競争環境広告の主な役割
導入期立ち上がり。伸びは緩やか競合は少ない製品を知らせる(情報提供)
成長期急速に伸びる参入が増える競合ではなく自社を選ばせる(説得)
成熟期伸びが鈍り、横ばいに顔ぶれが固定し、価格・販促の競争へ思い出してもらい、離反を防ぐ(維持)
衰退期減少に転じる撤退が始まる続けるかを選ぶ(縮小・選別)
導入期成長期成熟期衰退期知らせる選ばせる思い出させる続けるかを選ぶ情報提供型広告説得型広告リマインダー型広告売上
プロダクトライフサイクルの4段階と広告の役割。売上カーブが進むにつれ、広告の仕事は「知らせる」から「思い出してもらう」へ移っていく。段階の区切りに厳密な線はなく、模式図として描いている。

自社の商材が成熟期に入ったと判断できるサイン

自社の商材がいまどの段階にいるかを教えてくれる指標はありませんが、成熟期には共通して表れやすいサインがあります。

  • 売上の伸びが市場全体の成長率と同程度か、それ以下の横ばいで続いている
  • 新規顧客の獲得単価が上がり続け、購入者に占めるリピーターの割合が高まっている
  • 機能や品質では競合と差が付きにくくなり、価格や販促での勝負が増えている
  • 広告を「新しく知ってもらう」ためより、「思い出してもらう」ために出す場面が増えている

なお、4段階の区切りに厳密な線はなく、サイクルの長さも商材によって大きく違います。「うちは成熟期だから教科書どおりこうする」と機械的に当てはめるためのものではなく、競争環境の変化を読み、打ち手を先回りで考えるための補助線として使うのが、この理論の本来の使い方です。

参照

教科書の「成熟期は広告費を削減」が半分しか正しくない理由

「成熟期の広告は維持型へ切り替え、費用は抑える」という教科書の整理は、方向としては正しい説明です。危ないのは、これを「成熟期の広告費は一律に削っていい」と読み替えることです。維持の効果はクリックやCVに表れないため、どの費用が売上を支えているかを見ないまま削ると、支えごと外すことになります。

成熟期の広告の役割は「獲得」から「維持」へ変わる

マーケティング論では、広告はその目的によって「情報提供型」「説得型」「リマインダー型」に分類されます。製品を知って理解してもらう情報提供型は導入期に、競合ではなく自社を選んでもらう説得型は成長期に、そして成熟期には、築いてきたブランドへの愛着を保ち、思い出してもらうためのリマインダー型が中心になる、という整理です。

つまり成熟期の広告は、新しい顧客を連れてくる仕事から、いまの顧客との関係を保つ仕事へ重心を移します。役割が変わるだけで、仕事がなくなるわけではありません。ここを「もう広告の出番はない」と読み違えると、後で見る失敗につながります。

参照

リマインダー広告とは|維持効果はクリックやCVに表れない

リマインダー広告の効果は、「買い続けてもらう」「次に選ぶときの候補から外されない」という形で表れます。広告を見た人はクリックせず、いつもの店頭やいつもの経路でいつもどおり買うだけです。つまり、効果がないのではなく、効果が広告管理画面の計測の枠の外で起きます。この売上を支える働きを、この記事では「維持効果」と呼びます。

維持効果は、広告に反応した人の行動を追いかける計測とは相性が悪い一方、売上全体の動きからは推定できます。クリックを追う計測と売上から推定する方法が、そもそも測っている対象からして違うことは、MMMとアトリビューション分析の違い|どちらを使うべきかで詳しく書いています。

ROAS・CPAだけで判断すると起きる失敗

獲得のための広告と維持のための広告が混ざった状態でROAS順に並べると、維持のための広告は下位に沈みます。クリックもコンバージョンもほとんど生まないからです。その状態で「効率の悪い順に削る」という一見合理的なルールを当てはめると、それは維持効果の大きい費用から順に削るルールに化けます。

さらに、削った影響はすぐには出ません。広告の効果には出稿をやめた後も残る分(残存効果)があり、記憶が薄れるのに合わせて数ヶ月かけて剥がれていきます。削った直後は費用だけが先に減るため、利益はむしろ改善して見えます。売上が沈み始めるのは数ヶ月後で、その頃には削減との因果は誰の目にも見えにくくなっています。下の図はこの時間差を模式的に描いたもので、推移は説明用の例です。実案件の数値ではありません。

広告費を削減費用が減り、利益は良く見える売上への影響は遅れて表れる-2ヶ月-1ヶ月削減月+1ヶ月+2ヶ月+3ヶ月+4ヶ月+5ヶ月+6ヶ月広告費売上
削減の影響が遅れて表れる時間差の構造。費用は削減した月から減るが、売上への影響は残存効果が剥がれるのに合わせて数ヶ月かけて表れる。数値は説明用の例で、実案件の推定値ではない。

この「削った直後は良く見える」構造が、成熟期の広告予算の判断をいちばん難しくしています。残存効果がなぜ生まれ、どう減衰していくのかは、アドストック・飽和とは?MMMの中身を図解でやさしく解説で図解しています。

衰退期・縮小市場ではどう考えるか

衰退期の戦略は「維持・収穫・撤退」の3つに整理でき、どれを選ぶかで広告費の扱いは変わります。また、市場の縮小局面は競合も広告を減らしやすいため、出し続ける側にとっては相対的に声が届きやすくなる局面でもあります。

衰退期の戦略の選択肢|維持・収穫・撤退

市場そのものが縮み始めた商材の選択肢は、教科書的には大きく3つに整理されます。

  • 維持:市場に残り、シェアを守る。あるいは撤退していく競合のシェアを取りにいく。広告は売上を保つ水準を維持する
  • 収穫:投資を絞り、利益を刈り取りながら緩やかに縮小する。広告は売上維持に効いている最小限だけを残す
  • 撤退:売却や生産終了へ向かう。広告は在庫消化などの目的を除いて止める

どれを選ぶ場合でも、判断の材料は同じです。いまの売上のうち、どれだけが広告に支えられているか。たとえば収穫を選んだのに、維持に効いている費用まで削ってしまえば、刈り取るはずだった利益の元になる売上が想定より早く落ちます。3つのどの道でも、維持ラインの把握が先に来ます。

縮小市場であえてシェアを取りにいく判断

縮小する市場では、多くの競合が広告費を削り始めます。このとき、市場の広告出稿の総量に占める自社の割合——シェア・オブ・ボイス(SOV)は、自社が同じ金額を出し続けるだけでも相対的に上がっていきます。競合が下りていく局面は、声が届きやすくなる局面でもあるということです。

SOVと市場シェアの関係は、広告研究で古くから調べられてきました。ニールセンの解説記事は、BinetとFieldが1980〜2010年の171キャンペーンを分析した研究を引きながら、SOVが市場シェアを上回る状態(エクセス・シェア・オブ・ボイス、ESOV)を保ったブランドは長期的にシェアが伸びる傾向があり、ESOV10%あたり市場シェアはおおむね0.5%伸びた、という関係を紹介しています。

もちろんこれは複数キャンペーンを均した傾向で、どの市場でも同じように成り立つ保証はありません。ただ、「市場が縮んでいるから広告も一律に縮める」以外の選択肢が理屈の上でも存在すること、そしてその判断にも自社の広告が売上をどれだけ支えているかの把握が必要なことは、成熟期と衰退期に共通しています。

参照

削れる広告費と削れない広告費をデータで見分ける方法

削れる費用と削れない費用を見分けるには、売上を「広告がなくても出る分(ベースライン)」と「施策ごとの貢献分」に分解する必要があります。分解する方法は大きく2つ——実際に止めて確かめる広告停止テストと、過去データから統計的に推定するMMM(マーケティングミックスモデリング)です。

広告停止テストのメリットと限界

いちばん直接的なのは、広告を実際に止めて売上がどう動くかを見ることです。地域を分けて片方だけ止める、期間を区切って止めるといった方法があり、うまく設計できれば強い証拠になります。

一方で、成熟期の商材では限界もはっきりしています。

  • 影響が読めないからこそ確かめたいのに、確かめるためには実際の売上を賭ける必要がある
  • 季節・競合・販促など他の要因と重なると、売上の変化のどこまでが停止の影響かを切り分けにくい
  • 残存効果のため影響が出きるまでに数ヶ月かかることがあり、その間に失った売上を戻すにも時間がかかる

停止テストが選べるのは、地域や期間を分けられて、テスト期間中の売上変動を許容できる場合に限られます。

MMMで売上を「ベースライン+施策別の貢献」に分解する

もう1つの方法がMMMです。過去2〜3年分の売上・広告・販促・季節性などの時系列データから、売上を「広告がなくても出ていた分(ベースライン)」と「各施策が押し上げた分」に統計的に分解します。広告を実際に止めなくても、施策ごとの貢献と、削減した場合の影響を推定できるのが停止テストとの違いです。下の図の割合は説明用の例で、実案件の推定値ではありません。

ある月の売上ベースラインTVCM検索広告SNS広告販促広告がなくても出る分施策ごとの貢献分維持効果もここに含めて推定されるこの内訳が分かると、「削る候補」と「削ってはいけない費用」を媒体単位で議論できる
MMMによる売上の分解のイメージ。売上を「広告がなくても出る分(ベースライン)」と「施策ごとの貢献分」に分けることで、どの費用が売上を支えているかを媒体単位で見られるようになる。割合は説明用の例で、実案件の推定値ではない。

分解した結果からは、媒体ごとの売上への貢献に加えて、「いまの投下量からさらに増やしたとき・減らしたときに、効きがどう変わるか」も読めるようになります。MMMの仕組みと分析手順の全体像は、MMM(マーケティングミックスモデリング)とは?仕組み・分析手順・できること/できないことにまとめています。

成熟ブランドこそMMMに向いている理由

MMMには「週次で2〜3年分程度の実績データ」という適用条件があります。導入期の商材はこの条件を満たせないことが多い一方、成熟期の商材は長い実績データが最初からそろっていることがほとんどです。季節性のパターンも安定しているため、売上の構造をモデルが捉えやすい条件が整っています。

一方で、成熟商材ならではの注意もあります。毎月ほぼ同額を出し続けてきた媒体は、投下量が動いた実績がないため、「変えたらどうなるか」をデータから推定しにくいのです。この場合は、推定の確からしさも含めて結果を読む必要があります。長年同じ配分で出し続けてきた広告費を、初めてデータで棚卸しする——成熟期のMMMは、そういう使い方になります。

成熟期の広告予算の実務|維持ラインを確かめてから再配分する

実務の順番は「維持ラインを確かめる→削る→浮いた分を再配分する」です。先に削って様子を見るのではなく、削減した場合の影響を試算してから動くことで、維持されていた売上ごと失う失敗を避けられます。

売上維持に必要な広告費の下限を見極める

維持ラインとは、いまの売上を保つために必要な広告費の水準のことです。MMMで施策ごとの貢献が分解できると、「この媒体はここまで減らしても売上への影響が小さい」「この媒体はいまの売上を支えていて、削ると数ヶ月かけて響く」という形で、削減候補に優先順位を付けられます。

手がかりになるのは、媒体ごとの「いまの投下量から増減させたときの効きの変化」です。すでに頭打ちの媒体は削っても影響が小さく、まだ効いている媒体は同じ金額でも削る影響が大きい——同じ「広告費の削減」でも、どこから削るかで結果はまったく変わります。

削った分をどこに再配分するか

維持ラインが分かると、浮いた費用の使い道も同じ土俵で判断できるようになります。

  • まだ伸びる余地のある媒体・施策に寄せる(成熟商材でも、媒体単位で見れば伸びしろが残っていることがあります)
  • 同じブランドの中の別の打ち手(リニューアル、新しい顧客層、販路の拡大)に回す
  • ライフサイクルの別の段階にある商品・事業へ移す

DOREGAの初回分析では、媒体別の貢献度の分解に加えて、予算配分を変えた場合のKPIへの影響をシミュレーションで試算します。削減シナリオを事前に試算してから動く——「削る前に影響を確かめる」を、いまあるデータで始められます。

よくある質問(FAQ)

Q01成熟期の広告費は、売上の何%が目安ですか?

一律の目安はありません。業種別の広告費比率の統計はありますが、それは他社の平均であって、自社の売上を維持するのに必要な水準ではないからです。同じ成熟期でも、競合の出稿量や、これまでの広告が積み上げてきた維持効果の大きさによって適正な水準は変わります。比率を目安に置くより、自社のデータで「維持に効いている費用」を確かめることをおすすめします。

Q02広告をやめたら、売上はすぐに落ちますか?

すぐには落ちないことが多い、と考えられています。広告の効果には出稿をやめた後も残る分(残存効果)があり、影響は記憶の薄れとともに数ヶ月かけて表れるからです。注意したいのは、この時間差が「止めても大丈夫だった」という早合点を生むことです。止めた直後の1〜2ヶ月で影響が見えなくても、維持効果が剥がれきったとは限りません。

Q03衰退期でも広告を出す意味はありますか?

選ぶ戦略によります。撤退するなら広告は止めるのが自然ですが、市場に残って利益を刈り取る・シェアを守る戦略を取るなら、売上の維持に効いている広告を残す意味があります。また、縮小市場では競合が広告を減らしていくため、出し続ける側のシェア・オブ・ボイス(広告出稿の総量に占める自社の割合)が相対的に上がりやすいという側面もあります。

Q04リマインダー広告の効果は、どうやって測ればいいですか?

クリックやコンバージョンには表れないため、広告管理画面のROASでは測れません。測るなら、売上全体の動きから統計的に推定する方法(MMM)か、地域や期間を分けた停止・出稿テストになります。その前提として、「管理画面で成果が見えない=効果がない、ではない」という認識を、予算の判断に関わる人の間でそろえておくことが第一歩です。

Q05長年ほぼ同じ予算で出し続けてきました。それでもMMMで分かりますか?

分かることと、分かりにくいことがあります。売上のうち広告が支えている分の推定はできますが、「投下量を変えたらどうなるか」は、過去に投下量が動いた実績のある範囲でしか推定できません。ずっと同額で出し続けてきた媒体は、意図的に出稿量を変えて記録を残すところから始めることもあります。これはどのMMMツールを使っても同じ、手法そのものの制約です。

成熟期の広告費は、削る前に「維持効果」を確かめてから|まとめ

プロダクトライフサイクルの理論が言うとおり、成熟期の広告は獲得から維持へ役割を変えます。ただしそれは、「広告費を一律に削っていい」という意味ではありません。長く続けてきた広告費の中には、いまの売上を支えている費用が混ざっていて、その働きはROASやCPAには表れないからです。

削る前にやることは1つです。売上をベースラインと施策ごとの貢献に分解して、「削れる費用」と「削れない費用」を仕分けること。成熟期の商材は実績データの蓄積があるため、この分解を始めやすい位置にいます。

影響を確かめてから、削る。この順番さえ守れば、削減は怖い判断ではなくなります。維持ラインを保ったまま浮いた費用を次の打ち手に回す、前向きな再配分になります。

この記事のポイント

  • プロダクトライフサイクルの成熟期には、広告の役割が「新規獲得」から「売上の維持」へ変わる。維持の効果はクリックやCVに表れない。
  • 「成熟期は広告費を削減」を一律カットと読み替えるのが典型的な失敗。ROAS順に削ると、維持効果の大きい費用から削ることになる。
  • 削減の影響は、残存効果が剥がれる数ヶ月遅れで表れる。削った直後に数字が良く見えるのは、費用だけが先に減るため。
  • 削れる費用と削れない費用は、売上を「ベースライン+施策別の貢献」に分解すると見分けられる。成熟商材は実績データの蓄積があり、MMMの適用条件を最初から満たしやすい。
  • 実務の順番は「維持ラインを確かめる→削る→再配分する」。縮小市場では、競合が広告を減らすぶんシェア・オブ・ボイスを取りやすくなる局面もある。