TAMKO
認知・オフライン

テレビCMをやめたら売上はいくら減るのか——損益分岐点の計算と、自社の影響額の出し方

「テレビCMをやめたら売上はどうなるのか」。経営会議でこの話になったとき、本当に聞かれているのは「下がるか下がらないか」ではなく、「いくら下がるのか。その額は、やめて浮くテレビCM費に見合うのか」という金額の比較です。

この比較に必要な数字は3つあります。①損益分岐の売上減(この額を超えて売上が減るなら、やめると利益も減るというライン)、②自社のテレビCMが支えている売上の推定(①と比べる相手)、③2年目以降に遅れて出る分。このうち①は、テレビCM費と限界利益率だけで今日計算できます。難しいのは②と③で、業界平均や一般論の率では決められません。

この記事では、①の計算手順から、②③を自社の数字にする方法までを順に整理します。影響が「いつ・どこに・どの順で」出るかという時間の経過は、広告をやめたら売上はどうなるかの記事が扱っているので、そちらと併せて読んでください。実際にMMM分析を提供している立場から解説します。

【結論】要る数字は3つ。損益分岐の売上減だけは今日出せる

テレビCMをやめる・減らす判断に要る数字は、損益分岐の売上減・テレビCMが支えている売上の推定・2年目以降に遅れて出る分の3つです。損益分岐の売上減は「テレビCM費÷限界利益率」の割り算1回で出ます。残る2つは、業界平均ではなく自社データからの推定が必要です。

数字何を表すか出し方
①損益分岐の売上減この額を超えて売上が減るなら、やめると利益も減るラインテレビCM費 ÷ 限界利益率(算術)
②テレビCMが支えている売上実際にいくら減りそうか(①と比べる相手)自社の時系列データからの推定
③2年目以降に遅れて出る分1年目の監視・試算に入らない蓄積の影響年単位の定点観測と長期の研究値で補う

①は割り算1回で出ます。②が本題で、業界平均の影響率をあてはめても自社の判断にはならないため、自社の過去データからの推定が必要です。以下、順に出し方を見ていきます。

損益分岐の売上減は「テレビCM費 ÷ 限界利益率」で今日出せる

テレビCMをやめると、テレビCM費の節約額がまるごと利益の改善になります。一方、売上が減ると、減った売上×限界利益率のぶん利益を失います。この2つが釣り合う売上減が損益分岐で、式は「年間テレビCM費÷限界利益率」の1行です。

損益分岐の売上減 = 年間テレビCM費 ÷ 限界利益率

たとえば年間のテレビCM費が1.2億円、限界利益率が60%なら、損益分岐の売上減は1.2億円÷0.6=2億円です(数値は説明用の架空の例です)。やめた結果の売上減が年2億円未満に収まるなら短期の利益はプラス、2億円を超えるなら、テレビCM費を全額節約しても利益ごと減る計算になります。

節約できるテレビCM費+1.2億円売上減で失う限界利益−1.2億円=売上減2億円 × 限界利益率60%=左右が釣り合う売上減(2億円)が損益分岐
節約できるテレビCM費と、売上減で失う限界利益が釣り合う点が損益分岐。数値は説明用の架空の例で、実案件の推定値ではありません

限界利益率は「売上が1円減ったときに失う利益の率」で、売上から変動費(売上原価のほか、物流費・決済手数料など売上に連動して増減する費用)を引いた残りの比率です。手元にすぐ出ない場合は粗利率で概算できますが、原価以外の変動費が大きい商売では、限界利益率は粗利率より低くなります。

この式は判断の土俵を作るだけで、答えではありません。「実際の売上減は2億円を超えるのか」——つまり①と比べる相手の②がないと、判断は前に進みません。そして、多くの試算がここで一般論に逃げて崩れます。

「業界平均の影響率」では、自社の判断ができない

広告停止の影響には参照できる研究値がありますが、平均値を自社の試算にそのまま使うことはできません。平均の中には、止めてもほとんど落ちなかったブランドと、平均を大きく超えて落ちたブランドの両方が含まれ、自社がその分布のどこにいるかは平均値からは分からないためです。

参照値として代表的なのは、広告を1年以上止めた米国365ブランド(22カテゴリ)を分析した研究です。市場シェアが平均で1年後に10%、2年後に20%、3年後に28%低下し、低下は小規模なブランドと、停止前からシェアが落ちていたブランドで特に大きい、という傾向が報告されています。

参照

「影響が小さい場合・標準・大きい場合」の3シナリオを置く試算も、同じ理由で判断には足りません。シナリオ表は感度分析としては有用ですが、「うちはどのシナリオなのか」を決める材料が別に必要です。その材料は、外部の統計ではなく自社の過去データにあります。

自社の影響額は、過去の出稿と売上の時系列から推定する

自社のテレビCMが支えている売上を推定する材料は、過去の出稿量が動いたときに、売上と指名検索がどう動いたかという自社の実績です。この推定を統計手法として体系化したものがMMM(マーケティングミックスモデリング)です。

過去1〜2年の週次または月次の出稿量・売上・指名検索を並べ、季節性・販促・値上げなどの要因を織り込んで、売上を「広告がなくても立つ売上(ベースライン)+施策別の貢献」に分解します。分解の中の「テレビCMの貢献分」が、やめた場合の売上減見込みの推定値(幅つき)になり、①の損益分岐と比べられる状態になります。仕組みの全体像はMMM(マーケティングミックスモデリング)とは?の記事で解説しています。

全国放送で地域別データがない場合でも、この推定は成立します。地域で分けられない場合の方法の使い分けは、地域テストができないときの効果検証の記事にまとめています。

「全部やめたら」と「減らしたら」は、別の質問

もうひとつ、試算を自社の数字にするうえで効くのが、全部やめる場合と減らす場合を分けて考えることです。広告には、投下量を増やすほど1円あたりの伸びが鈍る性質(飽和)があります。年間1.2億円の出稿のうち、最初の4,000万円と最後の4,000万円が同じだけ売上を支えているとは限りません(この性質の仕組みはアドストック・飽和の記事で図解しています)。

飽和が進んでいる場合、「1.2億円を全部やめると損益分岐を超えるが、8,000万円に減らすなら売上をほとんど落とさず4,000万円の利益改善になる」という結果がありえます(数値の関係は説明用の架空の例です)。この「あと1円増やしたら・減らしたらいくら動くか」を限界ROIと呼び、平均のROIと区別して見るのが予算配分の基本です。考え方は広告予算の配分の記事で解説しています。段階的に減らす場合の中止ラインの決め方は、削減テストの判定基準の記事にあります。

試算に入れ忘れやすい2つの項目

①②が揃った試算でも入れ忘れやすいものが2つあります。2年目以降に遅れて出る分と、戻すときにかかる時間——どちらも「1年目の数字に出ない」項目です。

2年目以降に遅れて出る分

売上の時系列から推定できるのは、主に短期〜中期の反応です。ブランドの認知や店頭での想起を通じた影響は年単位で進み、先の研究でも市場シェアの低下は1年後10%→2年後20%→3年後28%と年を追って拡大しています。1年目の損益がプラスに見えても、2年目の売上減が拡大する構造はありえます。試算書には「この試算が覆っているのは1年目まで」と明記し、認知率・想起率・シェアの年単位の定点観測をセットで計画してください。

戻すときにかかる時間

テレビCMをやめた後に想定より売上が落ち、出稿を再開しても、数字がすぐ元に戻るとは限りません。認知や想起の回復には積み上げの期間が必要だからです。やめる試算には「想定を外れたらいつ・何を条件に戻すか」を先に書いておくと、再開の判断が遅れて損失が伸びる形を避けられます。

DOREGAの場合|テレビCMの貢献分を、損益分岐と比べられる数字にする

TAMKOのMMM分析サービス「DOREGA」は、この記事の②——テレビCMが支えている売上の推定——を分析代行の形で提供しています。エンジンにはGoogleのMMMフレームワーク「Meridian」を使い、前後のデータ整形・レポート作成を独自ツールで標準化することで、初回分析15万円で、テレビCMを含む施策別の貢献・ROI・飽和度の分解と、出稿量を変えた場合の予算配分シミュレーションを出します。「全部やめた場合」だけでなく「◯割減らした場合」の売上見込みをシミュレーションで比べられるため、損益分岐の式と並べると、やめる・減らす・続けるの判断材料が揃います。手元のデータで分析が成立するかは、無料の事前診断で確認できます。

よくある質問(FAQ)

Q01限界利益率が分からないときは、粗利率で計算してもいいですか?

最初の概算としては使えます。

ただし、物流費や決済手数料など原価以外にも売上に連動する費用が大きい商売では、限界利益率は粗利率より低くなり、損益分岐の売上減は粗利率で出した値より大きくなります。概算の後に、経理の数字で締め直してください。

Q02損益分岐を超えなさそうなら、やめてしまっていいですか?

その比較が見ているのは1年目の短期利益だけです。

2年目以降に遅れて出る分と、全部やめる以外の選択肢——減らす・配分を変える——を並べてから決めることをおすすめします。飽和が進んでいる場合、減らすほうが利益改善と売上維持を両立させる余地があります。

Q03影響は、いつ・どの指標から出ますか?

典型的には、指名検索・新規顧客が先で、総売上は数か月遅れて動きます。

直後に総売上が変わらないことは、影響がないことの証拠にはなりません。経過の詳しい整理は「広告をやめたら売上はどうなるか」の記事で解説しています。

Q04すでにテレビCMをやめた後ですが、影響額はまだ測れますか?

測れます。

やめた前後の出稿量・売上・指名検索の時系列が、そのまま推定の入力データになります。出稿量が大きく動いたという意味では、停止の前後はむしろ分析に向いた期間です。何をいつやめたかの記録を揃えてから分析してください。

損益分岐は今日出せる。比べる相手は平均値ではなく、自社データからの推定で|まとめ

「テレビCMをやめたら売上はいくら減るのか」に答える形は、損益分岐の売上減(テレビCM費÷限界利益率)と、自社のテレビCMが支えている売上の推定値の比較です。前者は割り算1回で今日出ます。後者は業界平均の影響率やシナリオ表では決まらず、過去の出稿と売上の時系列からの推定(MMM)が必要です。さらに、全部やめると減らすは別の質問なので、飽和と限界ROIで「どこまで減らせるか」も並べて比べる。1年目の試算に入らない2年目以降の遅れと、戻すときの時間を明記すれば、会議で崩れない試算書になります。

この記事のポイント

  • 要る数字は3つ——①損益分岐の売上減(テレビCM費÷限界利益率)②テレビCMが支えている売上の推定 ③2年目以降に遅れて出る分。①だけは算術で今日出せる。
  • 広告を1年以上止めた365ブランドの研究値(シェアが1年後に平均10%低下)はあるが、平均値では自社が分布のどこかは分からない。3シナリオの表も「どれが自社か」を決める材料にはならない。
  • 自社の影響額の材料は、過去の出稿量が動いたときの売上・指名検索の反応。時系列からの推定(MMM)で、テレビCMの貢献分を幅つきの数字にする。
  • 「全部やめる」と「減らす」は別の質問。飽和が進んでいれば、減らすほうが利益改善と売上維持を両立させる余地がある。
  • 試算が覆うのは1年目まで。2年目以降の遅れは年単位の定点観測で追い、「いつ・何を条件に戻すか」も先に書いておく。