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成熟期・予算見直し

セール・値引き・クーポンをやめると売上は落ちる?やめる前に「本当に増えていた分」を確かめる方法

毎週のセールや会員向けのクーポンを、そろそろやめたい。値引きの原資が利益を削っているのはわかっていても、やめた途端に売上が落ちるのではないかと思うと、なかなか踏み切れない——小売・飲食・EC・メーカーの販促担当者や経営者から、よく聞く悩みです。

実際、値引きをやめた話には両方あります。週1回の割引デーをやめても客数はあまり変わらず、利益が戻ったという話。反対に、クーポンの配信を止めたら常連客の来店が目に見えて減ったという話。同じ「やめる」でも結果が分かれるのは、値引きで立っていた売上の中身が、会社ごと・商品ごとに違うからです。

そこでこの記事では、値引き・セールの売上を3つの部分に分けて、やめたときに何が失われ、何が戻ってくるのかを整理します。そのうえで、やめる前に影響を見積もる3つの方法と、段階的なやめ方を順に説明します。

対象は、セール・値引き・クーポンを続けていて、減らしたい・やめたいと考えている販促担当者や経営者の方です。統計の専門知識がなくても、自社の数字のどこを確かめればよいかがわかる水準で書いています。

広告や販促の効果分析を実際に行っている立場から解説します。

【結論】値引きをやめて失うのは「値引きで本当に増えていた売上」だけ

セール期間の売上が、やめたあとにそのまま消えるわけではありません。失うのは、値引きがなければ生まれなかった売上(増分)だけです。残りは、買う時期が元に戻るか、値引きしていた金額がそのまま利益に戻ります。

セールの週に売上が大きく伸びると、その伸びの全部が値引きのおかげに見えます。けれども、その中には、もともとその商品を買う予定だった人や、来月買うつもりだった人の購入も入っています。続けるかやめるかを決めるときに見るべきなのは、セール期間の売上の大きさではありません。値引きがなかった場合と比べて、売上がどれだけ増えていたかです。

増分が大きい値引きなら、やめると売上も利益も減るおそれがあります。増分が小さい値引きなら、やめても売上の減りは限られ、利益はむしろ増えることがあります。「値引きをやめたら売上は落ちるのか」という問いには、増分の大きさを確かめるまでは答えが出ません。

値引き・セールの売上は3つに分かれる

値引き・セールの期間に立った売上は、「本当に増えた売上(増分)」「前倒しされた売上(先食い)」「値引きがなくても買った人の売上(値引き損がかかる部分)」の3つに分けて考えられます。

セール期間の売上 1,000万円(説明用の架空の例)値引きがなくても買った人の分(値引き損がかかる)550万円前倒しされた分(先食い)250万円本当に増えた分(増分)200万円やめると定価で戻り、値引き損がなくなるやめると後の週に戻る(一部は他店へ)やめると失うやめても大半は残るやめて失う分
セール期間の売上1,000万円を、値引きがなくても買った人の分・前倒しされた分(先食い)・本当に増えた分(増分)に分けた図。値引きをやめて失うのは右端の増分だけで、先食いの分は後の週に戻り、値引きがなくても買った人の分は定価で戻る。金額は説明用の架空の例で、実案件の推定値ではありません

本当に増えた売上(増分)

値引きがあったから初めて買った人、いつもより多く買った人の分です。はじめて試してくれた客、競合店ではなく自店を選んでくれた客、ふだん1個のところを2個買った客などが当たります。値引きの効果と呼べるのは、この部分だけです。

前倒しされた売上(先食い)

近いうちに買う予定だった人が、セールに合わせて購入を早めた分です。食品や日用品のまとめ買い、セールの時期を待って買う家電や衣料が典型です。セール期間には上乗せに見えますが、そのあと買うはずだった週の売上が減るので、長い期間で合計すると増えていません。

同じ構造は、国の経済分析でも説明されています。内閣府の平成26年度年次経済財政報告は、2014年4月の消費税率引上げについて、物価の上昇が事前に予想されることから、駆け込み需要とその後の反動減が生じると整理しています。「いまのほうが後より安い」とわかれば、人は買う時期を動かします。値引きの先食いも、これと同じ動きです。

参照

値引きがなくても買った人への値引き(値引き損)

いつもの常連客が、いつもの商品を、たまたまセール期間に買った分です。買う数量は値引きがなくても同じなので、値引きした金額はそのまま利益から出ていきます。会員クーポンやポイント倍増は、来店の多い客ほど使う機会も多いため、この部分が膨らみやすい点に注意が必要です。

3つの割合は、商品や客層、値引きの頻度で大きく変わります。めったにセールをしない商品では増分が大きく出やすく、毎週のように値引きしている商品では、先食いと値引き損の割合が大きくなりがちです。

値引きをやめると、売上と利益はどう動くか

やめた直後は、増分がなくなるうえに「またセールがあるかも」と様子を見る客がいるため、売上は一時的に落ちやすくなります。一方で、値引き損がなくなる分、利益は戻ることがあります。売上と利益は分けて見ます。

売上は一時的に落ちやすい

値引きをやめた最初の数週間は、セールのあった週と比べれば、売上は確実に下がります。ただしこれは、セール週という山がなくなっただけのことも多く、ならした水準で見ると下がり方はずっと小さいことがあります。比べる相手は、セールのあった週ではなく、前年の同じ時期や、セールのない週の平均にします。

また、客が次のセールを待って様子を見ている間は、ふだんの買い物まで先送りされ、本来の水準より低く見えることもあります。値引きをやめたことが客に伝わり、買い方が落ち着くまでには、ある程度の時間がかかります。

止めた直後の落ち込みと、そのあと落ち着く水準を分けて見る考え方は、広告を止めた場合と共通です。広告をやめたら売上はどうなるかの記事でも扱っています。

利益は戻ることがある

売上が下がっても、利益が増えることは珍しくありません。数字で見てみます(説明用の架空の例です)。定価1,000円、仕入れ原価600円の商品を2割引の800円で売ると、1個あたりの粗利は400円から200円へ半分になります。セールの週に1,000個売れた場合の粗利は20万円です。値引きをやめて販売数が650個に減っても、粗利は650個×400円で26万円となり、セールの週を上回ります。

この例では、2割引で定価のときと同じ粗利を確保するには、2倍の数を売る必要があります。値引き率が大きいほど、また粗利率が低い商品ほど、この差は広がります。やめるかどうかは、売上の減り幅ではなく粗利の額で判断します。

クーポン・ポイントに慣れた客の反応

気をつけたいのは、値引きに慣れた客の反応です。値引きの頻度が、客の「この商品はこのくらいの値段」という基準の価格(内的参照価格)に影響することは、マーケティング研究でも実証分析の結果として紹介されています。基準が下がった客にとっては、定価に戻すことが値上げのように感じられます。

とくに、クーポンやポイント倍増を受け取るのが当たり前になっている会員は、配信が止まると来店の理由を一つ失います。値段を比べて店を選ぶ客は、競合店へ移るかもしれません。一方、品ぞろえや立地、接客を理由に来ている客は、値引きがなくても大きくは動かないことが多いものです。どちらの客がどれだけいるかが、やめたときの影響を左右します。

やめる前に影響を見積もる3つの方法

影響は、やめる前にある程度見積もれます。方法は、値引きしない店舗・期間をつくって比べる、過去のセールの前後で売上の落ち込みを見る、価格と販促を含めて売上を要因に分ける、の3つです。

項目方法1:店舗・期間で比べる方法2:過去のセールの前後を見る方法3:要因に分ける
わかることやめた場合の売上と粗利の変化先食いの大きさと増分の目安値引きの上乗せを広告・販促と並べた大きさ
必要なもの似た店舗の組、または一部をやめる期間過去のセール前後の週ごとの売上週ごとの売上・値引き率・施策別の費用(1〜2年分)
向いている場面店舗やカテゴリが複数あるまず手元のデータで当たりをつけたいチラシや広告も同時に動いている

方法1:値引きしない店舗・期間をつくって比べる

いちばん確かめやすいのは、一部だけ実際にやめてみることです。店舗が複数あるなら、条件の似た店舗を2つの組に分け、片方だけ値引きをやめて、同じ期間の売上と粗利の動きを比べます。ECなら、一部の商品カテゴリだけクーポンの対象から外す、会員の一部にだけクーポンを送らない、といった形で比べられます。

比べるのは売上の水準ではなく、やめる前からの変化です。やめる前の数週間に2つの組が同じように動いていたことを確かめておけば、季節や天候のように両方にかかる影響を差し引けます。期間は、その商品が買われる周期より長く取ります。月に1回ほど買われる商品なら、2〜3か月は見ないと、先食いの谷や様子見が落ち着いたあとの水準がわかりません。

方法2:過去のセールの前後で、売上の落ち込みを見る

新しく試す前に、手元のデータでできる確認もあります。過去のセールについて、前後数週間の売上を週ごとに並べ、セール後に平常の水準を下回る「谷」があるかを見ます。谷が深く長いほど、セール中の売上に先食いが多く含まれていたと考えられます。セールの直前に売上が下がっていれば、告知を見て買い控えた客がいた可能性もあります。

セール期間の上乗せから、前後の落ち込みを差し引いた残りが、増分の大まかな目安です。たとえば、セール週の売上が平常より300万円多く、その後の3週間で合計180万円落ち込んでいたなら、増分の目安は120万円です(説明用の架空の例です)。これを値引きした金額の総額と比べると、そのセールが利益を生んでいたかどうかがわかります。

ただし、セールの時期に季節の山やチラシ・広告が重なっていると、その影響も混ざります。前年の同じ時期と比べるなどして、ほかの要因をできるだけ外して見ます。

方法3:価格と販促を含めて、売上を要因に分ける

値引きのほかに、チラシやWeb広告、季節要因などが同時に動いている場合は、週ごとの売上を「施策がなくても立つ売上」「価格・値引きの影響」「広告や販促ごとの影響」「季節などの外部要因」に分けて推定する方法があります。代表的なのは、マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)と呼ばれる統計的な手法です。値引き率やセールの有無を要因の一つとして入れると、値引きによる上乗せを、広告と同じ単位で並べて見られます。

必要なのは、週ごとの売上、値引き率やセールの実施状況、広告・販促ごとの費用を、1〜2年分そろえたデータです。値引きの効果そのものの測り方や、値引き幅の決め方は、値引き・セールの効果の測り方の記事で詳しく扱っています。セールの告知にチラシを使っている場合は、チラシをやめたら売上はどうなるかの記事もあわせて読むと、値引きの分と紙の分を分けて考えやすくなります。

セール・値引きの段階的なやめ方

一度に全部やめるより、対象を絞る、頻度と値引き幅を下げる、値引きの代わりの接点を用意する、の順で少しずつ減らすほうが、影響を確かめながら進められます。変えるのは一度に一つにしておくと、何が効いたかを後から見分けられます。

対象(商品・客)を絞る

最初にやめるのは、先食いと値引き損が大きく、増分が小さいと見込まれる部分です。方法2で谷が深かった商品、常連客がいつも買っている定番商品、利用者がほぼ既存の会員に限られているクーポンなどが候補になります。反対に、新しい客の試し買いにつながっている値引きや、在庫処分のように値引き以外では売れにくいものは、残す理由があります。全商品一律のセールを、対象を絞ったセールに切り替えるだけでも、値引き損は小さくなります。

頻度と値引き幅を下げる

毎週の割引を隔週にする、2割引を1割引にする、というように少しずつ下げる方法です。頻度を下げると、客の基準の価格が下がり続けるのを止められます。幅を下げる場合は、売れた数量がどれだけ減ったかと、1個あたりの粗利がどれだけ戻ったかを週ごとに記録し、粗利の合計で比べます。

値引きを減らす途中で「通常価格」と並べて表示する場合は、表示の仕方にも注意が必要です。消費者庁は、過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示について、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とはいえない価格を使う場合は、その内容を正確に表示しない限り不当表示に該当するおそれがある、としています。長くセール価格で売ってきた商品では、通常価格として示す価格で実際にはほとんど売っていない、ということが起こりやすいためです。

参照

値引きの代わりに残す接点

値引きをやめると、客にとっては「お知らせが届く理由」「店に寄る理由」が一つ減ります。そこで、値引き以外の接点を残しておきます。新商品や入荷の案内、季節に合わせた使い方の提案、会員が先に知れる情報、修理や相談のようなサービスなどです。値引きを知らせていた配信の枠やチラシの紙面を、こうした内容に置き換えれば、客との接点の数は保てます。

置き換えた接点にも、効果の差があります。店頭での販促とWeb広告をどう比べるかは、店頭販促とWeb広告を同じ指標で比べる記事が参考になります。

DOREGAの場合|値引き・セールの影響は「本格分析」で扱う

TAMKOが提供するDOREGAは、統計学による広告効果の分析サービスです。この記事の方法3——価格と販促を含めて売上を要因に分ける分析——を、Googleのオープンソースの分析エンジン「Meridian」で行い、前後のデータ整形とレポート作成は独自ツールで標準化しています。

値引き・セールの影響を分けて見る分析は、標準範囲を超える分析として、本格分析(30万円〜)で扱います。本格分析の範囲は「KPIや事業が複数/SNSアカウント運用など費用のない施策/価格や販促の影響」で、費用と期間は着手前にご案内します。

値引きの影響は分けずに、Web広告やチラシなど費用のかかる施策の貢献と予算配分を見る場合は、標準範囲の分析である初回分析(15万円)になります。範囲は「1事業・主要KPI 1つ。Web広告もチラシ・イベントも入れられます」、お渡しするものは「レポート・予算配分案・結果説明会」、期間は「最短1週間(必要データ共有後)」です。

なお、短期の単発キャンペーンだけの評価は対象外です。年に一度の大型セールだけを取り出して評価したい場合は、方法1や方法2のような比較のほうが向いています。

よくある質問(FAQ)

Q01値引きをやめたら、客が他店に流れませんか?

一部は流れる可能性がありますが、どれだけ流れるかは客層によって違います。

値段を比べて店を選ぶ客は移りやすく、品ぞろえや立地、接客で選んでいる客は動きにくい傾向があります。一部の店舗や商品だけで先にやめ、客数と客単価の変化を確かめてから広げると、流出の大きさを見積もれます。

Q02セールは続けて、クーポンだけやめるのはどうですか?

値引き損が大きくなりやすいクーポンから見直すのは、筋のよい順番です。

会員向けクーポンやポイント倍増は、もともと買う予定の常連客が使うことが多い施策です。利用者のうち新しい客や久しぶりの客がどれだけいるかを見て、既存の客ばかりなら縮小の候補になります。ただし、セールとクーポンを同じ時期に変えると影響を見分けられないため、変えるのは一つずつにします。

Q03ECのセールも同じ考え方で判断できますか?

できます。

ECのセールの売上も、増分・先食い・値引き損に分かれます。ECは商品別・会員別・日別のデータが取りやすいので、一部の会員にクーポンを送らない、一部のカテゴリだけセールの対象から外すといった比較がしやすい環境です。ショッピングモールの大型セールのように時期が決まっている場合は、その前の買い控えと後の落ち込みもあわせて見ます。

Q04値引きをやめてから、何か月で判断できますか?

商品が買われる周期より十分に長い期間を見てから判断します。

やめた直後は、様子見や先食いの反動で、売上が実際より低く出やすいためです。週に何度も買われる食品・日用品なら1〜2か月、月に1回程度の商品なら3か月前後を目安に、前年の同じ時期や、値引きを続けた店舗と比べて判断します。季節の山をまたぐ場合は、その影響も分けて見ます。

値引きは「本当に増えていた分」を確かめてから減らす|まとめ

セール・値引き・クーポンの売上は、本当に増えた分(増分)、前倒しされた分(先食い)、値引きがなくても買った人の分(値引き損がかかる部分)の3つに分かれます。値引きをやめて失うのは増分だけで、先食いの分は買う時期が戻り、値引き損の分は利益として戻ります。やめた直後は売上が一時的に落ちやすいものの、利益まで同じように減るとは限りません。やめる前には、一部の店舗や期間で比べる、過去のセール後の落ち込みを見る、価格と販促を含めて売上を要因に分ける、のいずれかで増分の大きさを見積もっておきます。そのうえで、対象を絞り、頻度と幅を下げ、値引きの代わりの接点を残しながら、一つずつ減らしていくのが現実的な進め方です。

この記事のポイント

  • 値引き・セールの売上は「増分」「先食い」「値引き損がかかる部分」の3つに分かれ、やめて失うのは増分だけ。
  • 先食いは買う時期が動くだけで、値引き損は利益として戻る。毎週のように値引きしている商品ほど、この2つの割合が大きくなりやすい。
  • やめた直後は売上が一時的に落ちやすいが、粗利は戻ることがある。判断は売上の減り幅ではなく粗利の額で行う。
  • 影響の見積もりは、値引きしない店舗・期間との比較、過去のセール前後の落ち込みの確認、価格と販促を含めた要因の分解の3つ。
  • やめるときは、対象を絞る→頻度と幅を下げる→代わりの接点を残す、の順で、変えるのは一度に一つにする。